キャスカ困る

「なにかお困りのことがあれば知らせてくださいね」と言われて困るのが、困っていることを探すことだ。もちろん親切心で言ってくれているのはわかっているし、困っていることはちょこちょことあるのだが、言ってくれているその人になにがしかの知見があると期待され、かつ解決されそうな困っていることはなかなか思いつかない。

この小川を渡って、左に行くといつもの森

「雨が多くて散歩が困ります」とか「キャスカの足裏が皮膚炎気味で．．．」とか、「イギリスの配送事情は改善されないのか」とか「体重をあと3kg落としたい」とか、知らされてもきっと相手が困ってしまうだろう。「それは困りますよねえ」としか言いようがない。


まあそんなことをぐちゃぐちゃ考えず、「おかげさまで大丈夫です」とさらっと返すのが大人マナーなのだろうけども。

小川を渡って右に行った方のフットパスの入口

以前勤めていたのはKAIZENが大好きなベンチャー会社で、この「困っていること」は曲者だった。上司やエライ人が優しげに尋ねる「いまなにか困っていることはある？」という質問に正直に答えてはイケナイ。なぜならほとんどのケースにおいて自分の仕事が増えるだけだからだ。

左側は小川

長年勤めていると阿吽の呼吸もわかってくるので、今は新しいプロジェクトを抱え込めないぞという時は「現在のところは特になにも！」と朗らかに答えるか、「ちょっとまとめておきますね」とお茶を濁すのだが、自分が上司になってみれば部下の逃げの姿勢はスケスケのミエミエだった。きっと私のこともお見通しだったろうなあ。

右の茂みの向こうはグラウンド

茂みの切れ目を見つけて、グラウンドでちょっとラン

とはいえ、それなりにたくさん問題解決にタックルしていけばそれなりの評価もしてくれたので、KAIZEN筋肉をビシバシと鍛えてくれる良い会社だったと思うが、筋肉疲労は自己責任だから注意が必要だ。苦楽をともにした友人とLINEでおしゃべりしていたからか、ふと会社のことをつらつらと思い出した今日だった。

さて、月曜日のキャスカはとても困っていた。


週末の雨で増水し、小川があふれてしまったのだろう。森の入り口にある橋（？）が外れてしまったのだ。

あーあ

対岸では木に登っている人がいて、何やってるのと尋ねたら、「来た道戻るのめんどくさいんだよね。木を伝ってそっち側に渡れるかと思って～」だって。見ているうちにもスルスルと渡りは成功したのだが、この人のファッションがいかしてた。

中折れ帽に肩までのウェービーな黒髪、サングラス、ふっといシルバーのチェーン、革ジャンにTシャツ＆ジーンズ、ミドルのエンジニアブーツ。で、全身真っ黒コーディネイト。たぶん50歳くらい。なぜそんな恰好でこんなところを散歩しているんだ。

シャーロックとかバーナビー警部とか、イギリスのドラマを見ていると「よくそんな恰好で森を歩きますね!?」ということが多いんだけど、この国の人たちは本当に散歩愛が深い。見ていて楽しい。

仕方ないので、引き返して小川の向こう側を通るフットパスの入り口までぐるりと回ることに。林の中を通って橋の対岸へ。普段と違うコースだったので興奮したキャスカは、そこで勢いあまって小川を越えてしまった。

橋の反対側から見たところ

．．．のはいいが、越えてからふとワレにかえったようで、小川を渡れない私が戻ってくるよう呼んでも、びびってしまって水に入れない。

あわわ

あわわわわ

どないしょ．．．

鳥がいたり興奮してる時は、躊躇せず水に飛び込むのは知ってのとおり（無心になれば、泳ぎだってうまい）。

ここから降りれば．．．

なんとかして．．．

とゆうか、今さっき自分で飛び込んで渡ったのに．．．(-"-)
怖いもの知らずの無鉄砲さとビビリの、このギャップが危なっかしいんだよね、キャスカは。

やっぱダメ

こっちはどうかしら．．．

このウロウロパニックは数分続き、あの手この手で私が呼んでもダメ。

おかーさん、たすけてー

困ったわ．．．

あとから写真を見ると困ってる姿がかわいいんだけど、この時は私も困り果ててしまった。

これでダメなら さっきの人みたいに木登りで渡ろう．．．と、呼びながら行っちゃうふりをしたら、ようやく意を決したのかザンブと飛び込めた。

いやはや無事に戻ってきてよかった。

とことん困っていることがない、というのはとても幸せなことだと思った。






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